尼崎列車事故の時系列

この事故の周りに蠢く無責任な連中には言いたいことが色々あるが、まずは起こった物理現象を知りたい。

ところが報道されている「事故」に関する情報は何が信用できて、何が信用できないのか全くわからない。

●電車が傾き始めた時の速度はどうだったのか?
108km/h, 123km/h, 126km/hなどの数字が乱れ飛んでいる。が、この速度ではとても転覆できないことは明らかである。
時速133kmで転覆するとすれば先頭車両の重心位置は149cmでなければならないが、これは有り得ないほど高い。JRと同じ狭軌の車両であった営団日比谷線脱線事故の際の車両の重心位置は130cmである。
133km/hですら脱線しがたいが、速度は遠心力(横G)に自乗で効くので、126km/hは脱線に程遠い。もし126km/hで転覆するためには車両重心は170cmでなければならなくなって、これは物理的に考えられない。

●カント(左右のレールの高低差)は本当にJR公式発表の97mmだったのか?
国土交通省航空・鉄道事故調査委員会(事故調委)はレールには異常がなかったと言っているようだが、事故調委の言うことも全くあてにはならない。が、カントの狂いで脱線するには、カントが70mm以下でなければならなくなり、これも有り得ない。

●緩和曲線での線路の曲率半径Rとカントの組み合わせが不適切だったのでは?
1/Rとカントの変化がともに線形である条件などで試してみたが、緩和曲線は最もRのきつい本カーブよりも条件は穏やかになって、転覆する条件からより遠くなる。従って曲率半径Rとカントの組み合わせが仮に不適切だったとしても転覆する条件を満たすことはない。

これらのことから、速度超過だけではとうてい転覆する条件を満たせず、未知の力が列車に働かない限り転覆事故は生じなかったはずという結論となった。

ここで一度「転覆条件」から離れて転覆時の時系列に注目することにした。

●ブレーキの遅れ時間は
事故を起こした列車は事故直前の停車駅で派手なオーバーランを起こしたとして知られている。オーバーランの距離は70mとかいう数字も報道されているが、これをブレーキをかけ始めるタイミングの「遅れ時間」に換算するとわずか2秒に過ぎない。これは「ウッカリ」タイミングを逃した場合に、人間の反応時間から考えて、大いにありえそうな時間遅れである。

さて、事故を起こしたカーブに進入する際に、本来のブレーキタイミングからはどれだけ遅れていただろうか?報道によれば、本カーブの手前30m(緩和曲線がはじまって約30m)で非常ブレーキがかけられていたとされている。

また報道によれば、緩和曲線のはじまる直前にある名神高速道路の高架前350m程度からブレーキをかけはじめるのが普通だとされているが、これの数字は、事故を起こした207系のブレーキ性能3.5km/h/sで直線の制限速度120km/hからカーブでの制限速度70km/hに落とすのに必要な14.3秒=370mと一致している。

事故を起こした列車の減速プロフィールは全くわからないが、直線で最高126km/hで走っており、カーブ直前には108km/hだったという仮定をすると、カーブ入り口にさしかかる5.1秒前からブレーキをかけていたことになる。

これは本来ブレーキをかけ始めるカーブの14.3秒前というタイミングから9秒もの遅れがあり、「あっと思ったら本来のタイミングから遅れていた」などというレベルではない。何か重大なインシデントがあって「ブレーキをかけることができなかった」と考えなければならないと私は思う。

……と思っていたところ、神戸新聞に「「制動数秒不能」運転士ら証言 脱線同型車両 」
という記事が報道された。(http://www.kobe-np.co.jp/kobenews/sougou/00003121sg300505141400.shtml

冒頭を引用すると、
「尼崎JR脱線事故で、脱線した快速電車と同じ207系と呼ばれる車両などで、一時的にブレーキが利かなくなる「オーバーロード」(OL)と呼ばれる現象が多発していることが十四日、複数の運転士らの証言で分かった。高速から減速した際、乗用車のエンジンブレーキに当たる「電力回生ブレーキ」が突然利かなくなり、圧縮空気を使いブレーキパッドで車輪を締め付ける「空気ブレーキ」への切り替えまでに、数秒間の「制動の空白」ができるという。」
とのことだ。

●転覆現象の進行速度は?
左側レールの上面外側についている傷から、車体が傾き始めたのは本カーブがはじまってから10m(カーブ入り口から70m)だという。

そして、1両目2両目がほぼ45度に傾いてあたったとされる電柱の位置(脱線位置の10m後方?)は本カーブが始まって60mだという。

傾き始めてから45度に傾くまでに約50m走っているわけであるが、時速108kmでこの距離を走ると約1.7秒である。

事故調委は傾き始めてから脱線まで(電柱までとほぼ同じと考えられる)が約2秒と考えていると報道されているが、これは上記数字から導き出したものだろう。

しかし、これは奇妙なのだ。

曲率半径300mのカーブで転覆する条件として、車両は横からの大きな力を受けなければいけない。その大きさは、重力の0.46倍でなければならない。

# 力の理由が遠心力であれ、それ以外のものであれ、幾何形状を認める限りこの条件なしには転覆は絶対に起きない。

ところがこの重力の0.46倍という力を受けて転覆するならば、車両が傾き始めて45度に傾くまでの時間はわずか0.95秒程度しか要らないのだ。厳密には、物理的に傾きはじめてからレールの外側に傷がつくまで傾くのに0.1秒程度必要なので、「レールの外側に傷がついてから電柱にぶつかるまで」に要する時間は0.85秒しかない。

仮に傾き始めてからは時速108km/hで走行する時の遠心力「だけ」しかなくなったと仮定しても、傾き始めて45度になるのに1.2秒程度しか要らない。1.7秒と1.2秒とでは1.4倍も異なり、単なる誤差では済まされない大きな物理の差があったと考えなければならない。

これらの事実を説明するには、次のような現象であったと考えることができる。

1.遠心力以外の特別な横向きの力が働いたために列車が傾き始めた
2.傾き始めた時にその「特別な力」は働かなくなり、傾きが進行して脱線するまでに列車速度は約80km程度に減速し、ゆっくり傾きが進行し、最後に(電柱にぶつかるなどのきっかけで)脱線に至った。

私は警察も事故調委も(もちろんJR西自身も)、本当の事故原因を究明しようとしているとは全く考えていない。彼らはなんとなくそれっぽい、素人さえ騙せるような原因さえあげて、自分達にとって都合のよい結論が出せればよいと考えている。

今後、彼らが出してきた「事故報告」の内容と上記事実をつき合わせてみたい。