重大結論:転覆主原因は速度超過ではない

尼崎の列車事故原因についての考察と結果である。

【事故原因の物理的本質】

列車が横向きに転倒する原因は列車が進行方向横からの力(横G)を受けることである。
そしてこれが条件の全てであって他の事象は直接原因足りえない。

JR総研の計算として発表された、R300での当該車両転覆危険のある列車速度は133Km/hであるという。これは当該先頭車が空車であったと仮定した場合、私自身が行った計算ともほぼ合う。むしろ、JR総研の値の方が厳しい値であるのは、私は列車が列車横断面で変形しないことを仮定しているのに対して、JR総研は台車などのばねの働きによって重心位置がカーブ外側方向にずれるのを考慮したものと思われる。

そこで、ここではJR総研の計算を採用して、列車が事故現場曲線を通過する際の遠心力によって転覆させるためには133km/hの速度が必要だったと考える。その際列車が受ける横Gは重力の0.464倍(以下0.464Gと表記する)でなければならない。

カーブに制限速度70kmで進入した時の横Gは、0.129Gである。従って通常時の横Gから転覆に至るまでの横Gの増加分、0.336Gが、いったい何によって発生したかを明らかにすれば、事故の原因が明らかになったといえる。

【事故車のカーブ進入時の速度】

さて、実際の列車の転覆事象を分析するためには、当該列車がカーブに入った速度の値を確定させなければならない。この値は次のように求めた。

事故調査委の発表として報道されたところによれば、当該列車は曲線に入る30m前に非常ブレーキがかけられ、その時の速度108km/hだったとのことである。
そして、非常ブレーキがかけられる前の5秒間の間には時速126km/hが記録されていたとのことである。

非常ブレーキがかけられる5秒前に時速126km/h、非常ブレーキがかけられた瞬間が108kmであったとすれば、1秒間あたり3.6km/hの減速があったことになる。
この値は、207系車両のカタログスペック3.5km/hの減速性能という値と全く一致する。
つまり、当該車両では正常にブレーキが機能していたことが明らかである。

さて、非常ブレーキがかけられてカーブに入る30mの間も非常ブレーキの効果を無視し、これまでの通常ブレーキと同様の減速性能しかなかったと考えたとしてもカーブ進入時には速度は最悪でも105.7km/h以下まで減速されたと結論付けられる。

【速度超過の事故寄与度】

R300を速度105.7km/hで通過する車両にかかる横Gは0.293Gである。
この値は正常時(速度70kmでの曲線通過時)の0.128Gに比べて0.165G増えていることになる。つまり、速度超過の転覆への寄与度は 
(速度超過による横G増加分/(事故に至る横G増加分)=0.165G/0.335G=0.491
となって半分に満たない。

つまり、速度超過による遠心力の増加は、転覆原因となる力としての寄与度は50%に満たず、「主原因」足りえない。

これは非常に重要な結論だと私は考える。

「カーブに速度超過で進入したから転覆した」などという(事故調査委の)主張は、事故原因の理解をさまたげ、真の原因究明と再発防止に極めて有害な主張だと結論付けられる。