羊頭狗肉の業を取り巻く国

お断り:食肉の偽装を長年主導してきたとされるミートホープ社の社長やその一族役員の罪悪性についてはここでは論じない。さらには、その伝えられる疑惑の真偽の如何についても本質的には問わない議論である。

ミートホープ社について警察は不正競争防止法で捜査中だとか報道されている。不正競争防止法の定める罰金は個人に対して最高1000万円にとどまる模様だ。法人に対してならば最高罰金額は3億円のようだ。そして調べた限り不正競争防止法に刑法のような没収規定はないようだ。

一方、被害者たる多くの消費者は、自分がどれほどの被害にあったかどうかすら明確でないし、かりに被害を認知していても被害について証明する術を持たない人の方が多いだろう。損害賠償請求訴訟がそれほど起こるとは思えない。

すると、このままでは、ミートホープ社長および一族役員は10年以上にも及ぶ偽装によって得た年額5000万円超とも言われる役員報酬を、(偽装の真偽はともかく)処罰(懲役?)があったとしてもその後にも保有し続け、その後は「遊んで暮らせる」のではないだろうか?

もしも、詐欺罪が適用されれば、不正によって得たとされる利益の没収はなされ得るようだ。

「食品の安全を脅かした」という観点からすると、その起こした社会秩序に与えた打撃は「水道に(よくわからぬ)混ぜ物をした」にも匹敵し、刑法の本来の目的からすると厳罰が望まれるべきもののように思う。豚肉のアレルギーを持つ人もいることであるし、人に危害を加える(・あるいは実際に危害を加えた)可能性もあり、「傷害未遂」とでもいうべき状況でもあるのだが、刑法は傷害未遂を規定していない。

いずれにせよ、このような食品の偽装に対する法による明確かつ強固な処罰規定がないわけで、これではこの種の犯罪に対する法による「予防」の機能が全く働いていなかったといわざるを得ない。現に本件当事者は当初「このようなこと(偽装)を取り締まる法律がないのが問題だ」というような趣旨のことを主張していたように聞く。法律は、事後に「とっちめてやれば、それで良い」(応報論)で成り立つものではない。国(立法・行政)の明らかなる重大な不手際で、国の秩序を失った失態だと思う。


さて、おまけ的事項であるが、1年前に元役員らの行政への告発がありながら、結果的に何ら対応がなされなかった件について。

農政事務所は、公文書をもって(管轄だと考えられた)道庁に調査を依頼したと主張しているが、道庁はそんな記録は一切無いと主張しているとのことだ。

ここで、道庁は「無い証明」は原理的にできないので、そのような依頼があったという事実の立証責任は農政事務所側にあると思う。農政事務所は、その携えたという公文書と道庁の受理書を示せば事足りるのに、それをしないということは、現時点では、「実際にはそのような調査依頼はなかった。すなわち農政事務所は嘘をついている」と断じるしかない。

仮に何らかの理由があって本当はある証拠を示さないのだとしても、それは論理的には「嘘をついている」と断じられることを含んだ(容認した)上のことと論じられるべきだと思う。論理的なものの考え方というのはそういうことだ。