エキスポランドのジェットコースター事故報道に見られる過剰報道

エキスポランドのジェットコースター事故報道や批判について、不二家の消費期限切れの原料使用問題の批判報道(バラエティ?)に際して、TBSの「みのもんたの朝ズバッ!」が、「(賞味期限切れのチョコを回収し、)牛乳を混ぜて不正に再出荷する作業を日常的に行っていた」との事実に反する(とされる)報道をしたのと、似ているのではないかと思う状況がある。

エキスポランドのジェットコースター事故の直接的原因は、「車軸が折れた」からだと報道されている(エキスポランドもそのような表現をとって原因を公表した模様だ)。しかし、報道での折れた箇所を示す詳細の図面などを見れば、それは一般的な意味での「車軸」ではなく、「車輪ユニット」あるいは「台車」を車体に固定する「ボルト」ととでも呼ぶべきものだ。

そのことをもって直ちに、「正しくない報道だ」と批判するものではない。技術に詳しくない人に、折れた箇所のおおまかな場所を伝えるには、「車軸」とするのは、より多くの人に分かり易すく伝えるという観点からは、多少の不正確な用語用法もいたし方ないとも思うからだ。

しかし、続く報道で、「事故で折れた車軸について、JIS規格では一年に一回以上の探傷試験を義務付けているのに、エキスポランドはこれを怠った(ので事故が起こったのだ)。」ということで大盛り上がりである。なんでも国土交通省のお偉いさんまでがその点を持ってエキスポランドを批判したとの報道まである。そして、「車軸検査を義務化しろ」の大合唱である。


しかし、毎日新聞の報道(http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/jiken/archive/news/2007/05/08/20070508ddm041040159000c.html)によれば、

エキスポランド毎日新聞の取材に「JISが探傷検査を義務付けていることを知らなかった。自主的な検査という認識だった」と説明。そのうえで同社は「今回の事故で折れた車軸は、周囲の五つの車輪をまとめて車体と接続する『棒』に過ぎない。JISで定められた『車軸』とは違う」との見解を明らかにした。

とのことだ。


そこで、実際JIS A 1701「遊戯施設の検査標準」(http://www.jisc.go.jp/app/pager?id=137806)を見てみたのだが、

5.6.3 車輪装置など 車輪装置などは,次による。
a) 車輪装置は,回転状態が良好であり,取り付け部に緩み及び著しいさび(錆),腐食がないこととする。
b) 車輪の軸受け(ベアリング)は,給油が適切で,損傷又は甚だしい磨耗がないこととする。
c) 車輪軸は,き裂及び甚だしい磨耗がないこととする。
d) 車輪軸は,一年に一回以上の探傷試験を行うこととする。
e) 車輪には欠損及びき裂がなく,その磨耗量は設計図書などに記載の数値とする。
f) 空気入りタイヤの空気圧は,適切であることとする。
g) 車輪を取り付けるピン,ボルト,ナットなどの締付けは適正で,かつ,緩み止めが施してあることとする。
h) 走行台車及びその取付部は,腐食,き裂,破損及び著しいさび(錆)がないこととする。

と記載されていた。


私の読解力では、どう考えてもこのJIS A 1701「遊戯施設の検査標準」において、一年に一回以上の探傷検査が求められているのは回転する車輪の中心に位置する軸であって、エキスポランドのジェットコースターで折れた部品までもがその対象に含められている、と解することはとてもできない。件の部品は、g)で言及されている「車輪を取り付けるピン,ボルト,ナットなど」か、あるいは h)の「走行台車及びその取付部」に含めるのが精一杯であろう。本記事の読者の皆さんは、どう思われるだろうか。

そうすると、「エキスポランドがJIS規格で求められている一年に一回以上の探傷試験を怠った」とするのは、(エキスポランドの主張どおり)事実とは言えないと結論するしかない。


一連の報道は、事実に基づかずにエキスポランドを批判していると言えないだろうか。また、このような事実に基づかない批判は、同様の事故の再発防止を妨げていないだろうか。


セキュリティホールmemo(http://www.st.ryukoku.ac.jp/%7Ekjm/security/memo/2007/05.html#20070508__jet)では

実は車軸とは何なのかもわからないようです。

としているが、「車軸とは何なのかもわからない」のはセキュリティホールmemoの執筆者のように思える。


また、Tech-On! の「日経ものづくり]の記事(http://techon.nikkeibp.co.jp/article/TOPCOL/20070509/132196/)では、

使われない規格ほど無意味なものはない

というタイトルで記事が書かれているが、この主張をしている当人がJIS規格を全く読んでないとしか思えない。


不二家の不祥事もエキスポランドの事故でも、あるいはそれ以外の事故でも、安全に対する誤った認識、行動は当然に批判されるべきだが、事実を曲げてまで、ただ叩きまくるというのは慎みたい。もちろんこれは自分自身に対しても、戒めなければいけないことだと思っている。

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付記:

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070510-00000053-mai-sociの記事によれば、エキスポランドの施設営業部長は、「昇降機検査資格者」の資格取得講習で講師を務めていて、担当は遊戯施設の定期検査に関する授業だったとのことだ。、「昇降機検査資格者」の資格取得講習の遊戯施設の定期検査とは、「建築設備定期検査業務基準」のことで、(財)日本建築設備・昇降機センターの事業計画中部ブロック昇降機等検査協議会−各種帳票の運用基準やなどから具体的にはJIS A 1701のことを指しているとしか考えられない。

したがって、エキスポランドの施設営業部長がJIS A 1701のことを知っていないわけがなかろうと推察するが、一方で、http://www.mainichi-msn.co.jp/shakai/jiken/archive/news/2007/05/09/20070509ddm041040040000c.htmlの記事などを読むと、そのJIS A 1701において一年に一回以上の探傷検査が求められている部品があることについては、本当に知らなかったではないかと思わせるところがある。